セミナーレポートVol.15
在宅医療に取り組む前に備えてほしい2つのエッセンス

セミナーレポートVol.15

在宅医療に取り組む前に備えてほしい2つのエッセンス

更新日:2023年11月16日

本レポートでは、2023年11月7日に開催されたオンラインセミナー「在宅医療に取り組む前に備えてほしい2つのエッセンス」の講演内容をダイジェストでご紹介いたします。

株式会社なかいまち薬局
代表取締役社⾧


漆畑 俊哉

株式会社なかいまち薬局 代表取締役社⾧
漆畑 俊哉

株式会社ユニケソフトウェアリサーチ
ノアメディカルシステム株式会社

概要

高齢者が住み慣れた地域で最期まで過ごせる「地域包括ケアシステム」の構築を国は2025年をめどに目指しており、これに伴い在宅業務を実施する薬局数は増えています。本セミナーでは、なかいまち薬局(神奈川県足柄上郡)が行っている在宅医療の取り組みについて「薬剤師のタスクシフト・働き方を変える」「薬剤師の専門性を活かす」の2つの側面から解説いただきました。

薬剤師のタスクシフト・働き方を変える

漆畑氏は始めに、薬剤師の業務をタスクシフトしていくためには、非薬剤師(調剤補助専門員、薬局パートナー)の活躍が欠かせず、これまでの事務員とは異なる薬剤師のパートナーのような役割が求められると説明した。 パートナー育成のためには、最初から理想的な人材はいないことを認識しておくことや、パートナーのやりがいを創ることが重要であると述べた。

タスクシフト時には、連続的な業務の一部を切り取るのではなく、チームで同じ目標に取り組む意識をもってもらうことがポイントで、チームビルディングの時間を設けて「業務を見える化」することが有効。具体的には、横軸に重要性・縦軸に薬学的専門性を設けたマトリックスに業務を分類して、重要ではあるが薬学的専門性は低い領域に入る業務を、誰でも安全で効率的に、かつ均一に行えることを目指した。話し合いの時間を設けることはお互いの思いや考えを理解したり、業務の整理や効率化ができたりというメリットもあると述べた。

なかいまち薬局のパートナーが担う業務は、受付などの外来対応、在宅調剤の支援、在庫管理に加えて、訪問先に帯同して契約業務や薬のセッティングなど多岐にわたるという。また、「メンバーを信頼し他の誰かのために120%を発揮しているか」とチームスローガンを掲げていると紹介した。

バイタルサインと薬剤師の役割

続いて、薬剤師の専門性を活かす手段としてバイタルサインの重要性が解説された。薬剤師がバイタルサインを理解して客観的に評価することは、患者がこの薬を使って次回までどのような経過をたどるか予測できる薬剤師の強みを活かすことにつながり、医師への薬物療法の提案に説得力を持たせることができる。さらに、体温・血圧・脈拍・酸素濃度の測定や聴診器を使用した腸蠕動音・呼吸音の聴取、浮腫・皮膚・口腔内の観察など多角的な視点でバイタルサインを薬剤師自身で得ることも求められると説明した。実際になかいまち薬局では、在宅に携わる薬剤師全員がバイタルサインの測定ができ、実習生もトレーニングをして患者宅にて測定しているという。

これからの薬剤師の立ち位置が、最後まで患者の責任を持つ「コーチ」としての役割に変わることが求められる中で、薬剤師が自らの決断に責任を持つためにはバイタルサインという根拠が必要と強調した。

また、学校薬剤師の活動の一環として出前授業を行っており、バイタルサインを子どもたちに伝えながら実際に測定してもらったり、心電図の説明をするなど、薬局のメンバー全員で取り組んでいる。体の音や拍動を感じることで体の仕組みを理解してくすりを正しく使えるようになることを目的としており、このような観点を持つ子どもたちがどのように成⾧していくのか、地域にどんな影響があるのかを議論していると説明した。

多職種との関わり

在宅医療では多職種との関わりが重要で、「顔が見える関係」を超えた「肚(はら)の見える関係づくり」を目指して、「どのような薬物治療を提供したいと思っているか」など思いや提案を積極的にアウトプットしている。チームにおける薬剤師の役割は副作用、過量投与、漫然投与をチェックして最適な薬物療法を提案することが中心だが、肚の見える関係を構築することで、「あの薬剤師ならこうしてくれるだろう、聞いてみよう」と頼ってもらえる存在になり、生活での注意点や食事、家族との関係など職能を超えた役割やコミュニケーションを求められることにつながると述べた。

また、中には「薬局には処方箋がないと行きづらい」「まだ介護状態じゃないから相談しにくい」との考えもあると共有して、依頼・相談に対するハードルを下げるために連絡先(メールアドレス、SNS)を書いた名刺を用意することをすすめた。そして、依頼がきた時の心構えとして、まず基本的になんでも受け付ける(迷ったら「Yes」を選ぶ)、難しい場合でも条件を付けて受け入れ(「Yes,but…」)、依頼主の力になりたいと伝えることが重要と述べた。

まとめ

保険調剤の流れも対物から対人へと変化しており、薬を渡した後、次回の服薬指導まで継続的に把握するフォロー、アセスメント、フィードバックが求められるようになっている。

薬剤師の目的は薬を渡すことではなく「健康にさせること」である。目的を忘れずに、薬局外や多職種に薬剤師の個性をアピールしながら目標をもって取り組めるチームを作り、バイタルサインを活用して専門性を発揮していくことを期待したいとして、セミナーを締め括った。

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