薬剤師コラム Vol.12
課題だらけの調剤外部委託

2022年1月18日、経団連が規制改革担当へ「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ」を提出しました。調剤に関しては9つの提言があり、その中で「一包化を含む調剤外部委託の容認」に関する部分が注目されています。2022年7月11日には厚労省のWGが「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループのとりまとめ」を発表しました。そして内閣府は11月28日、調剤業務の一部外部委託について、国家戦略特区を活用して実証事業を実施する案を、規制改革推進会議医療・介護・感染症対策ワーキンググループへ示しました。調剤の外部委託について、薬剤師の間でも賛否が分かれています。「対物から対人業務へ」変わるための提案ですが、本当に効果はあるのでしょうか?

外部委託の対応方針

2022年1月19日より厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」では、調剤業務の一部外部委託についても議論が行われていました。薬剤師の対物業務を外部へ委託することで、余裕が出た時間を対人業務へ活かし、患者へのフォローを充実させ、地域との結びつきも強化しましょうというのが大筋の狙いです。

ワーキンググループのとりまとめでは、調剤の外部委託の対象となる業務は一包化(直ちに必要とするもの、散剤の一包化を除く)、委託先は同一の三次医療圏内(距離制限については今後も検討)の薬局(同一法人内に限定しない)であること、医療安全が確保されるよう基準を設けること、他に外部委託をする利用する場合には、患者に同意を得ること等が対応方針として示されました。

ポイントは一包化業務に限定されたこと、委託先についても距離制限が設けられていることです。また処方箋40枚規制(薬剤師の配置基準)についても、単純に40枚規制を撤廃又は緩和すると、処方箋の応需枚数を増やすために、対人業務が軽視される危険性があることから慎重に行うべきと示されています。つまり調剤業務を限定した上で、委託先も三次医療圏の薬局とし、さらに処方箋40枚規制はそのままとしました。

ワーキンググループのとりまとめ

出典:「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループのとりまとめ」(厚労省)より引用

一方、経団連が作成した「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ」の中にある「調剤・服薬指導」の目指す姿では、「調剤の外部委託」は規制緩和の一部にしか過ぎず、「薬局外からのオンライン服薬指導の容認」や「オンライン服薬指導と調剤等の機能に特化した、対面機能を持たない薬局の設置活用」までもイメージしており、薬剤師の処方箋40枚規制撤廃も提言しています。つまり岩盤規制に守られた法律では企業の参入障壁が高いため、そのハードルを低くすることで事業への参加を目指していることがうかがえます。

但し、大手チェーン調剤は自局の店舗を効率的に使えれば良いため、経団連が主張するすべてが認められなくても、「調剤の外部委託」「40枚規制の撤廃」まで認められれば、「薬局外からのオンライン服薬指導の容認」「対面機能を持たない薬局の設置活用」までは強く求めないものと予測されます。

つまりすべて認められてしまうとアマゾン薬局の本格的進出が可能となってしまうからです(日本におけるアマゾンの調剤事業はアメリカでの事業とは違うと思いますが。詳しくは薬剤師コラムVol.6回〈2022年11月10日〉を参照してください)。特に三次医療圏という距離制限は巨大工場ビジネスにとって大きな障壁となるでしょう。

一方で大手・中堅チェーンにとっては問題ない範囲と言えるでしょう。小規模チェーンや個人店舗にとっては、調剤の外部委託は全く影響がないとは言えないと考えます。

具体的な外部委託のパターンをイメージしてみると

そして外部委託を行う場合は、2通りのプロセスが考えられます。パターン1は委託元の薬局へ薬剤が届いてから患者へ服薬指導します。主に施設等の処方箋が対象となると思われますが、あまり患者側にはメリットがないように思えます。またパターン2については、かなり複雑なチャートではありますが、薬剤を画像で委託元の薬局が監査して、その後配送指示を出し、委託先の薬局が患者へ薬剤を配送します。薬局・患者双方にメリットはあるように思われます。

但し、特に安全面においては監査だけでなく、依頼時・一包化時・配送にも注意が必要です。特にパターン2は安全性上のリスクがより高いように思われます。これだけでは外部委託にメリットがあるのか、必要な制度なのかまで含めて判断のしようがないというのが本音です。

外部委託のパターンイメージ

出典:「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループのとりまとめ」(厚労省)より引用

まとめ

調剤業務の一部外部委託の実証イメージが示されたことで、安全性や効率性の影響を実証的に検証し、制度設計を行うことを目指しています。しかし一部委員から国家戦略特区を利用して強引に実証事業を進めることに対し、慎重な意見もあります。

一方、推進側も処方箋40枚規制のみで検証が行われること等に反対意見を上げたため、厚労省等との調整が行われることになっています。安全性上のリスクを薬剤師会側が主張していることに外部委託推進派は批判を強めています。

薬剤師という生命を守る仕事である以上、薬剤師会側の主張には個人的にではありますが、一定の理解をしています。様々な賛成・反対意見が出ていますが、最終的に責任を負うのは委託元であり委託先であろうとも薬剤師であるわけですから、責任を取る必要がある立場の意見は重く受け取らなければならないと考えます。

そして、まだまだ課題はありそうです。地域フォーミュラリーやリフィルといったことも外部委託の実施には不可欠と考えられるため、試運転的な制度の下であれば次々回調剤報酬改定でスタートする可能性はありますが、完全なカタチの制度としてスタートするにはしばらく時間はかかるでしょう。もう少し深く考えれば、そもそも健康保険制度が違うアメリカと日本では受け入れるための条件がかなり違うのではないでしょうか。

調剤業務の一部外部委託の実証イメージ

出典:調剤業務の一部外部委託に関する今後の対応について(案)資料3-2 事務局より引用
(内閣府 令和4年11月28日 第3回医療・介護・感染症ワーキング・グループ)

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