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薬剤師コラム Vol.10
患者一部負担金の価値を左右する要因とは
5、6年前になると思いますが、取引していない会社から「貴社の2薬局に対して、患者さんが処方箋をFAXで自社の仕組みを使い、受け付けて欲しいと要望が入っています」と営業されたことがありました。そして説明が進むと担当者からとんでもない発言が...
施設基準の加算は薬局の通信簿
突然、その営業は「各薬局の基本料・施設基準の取得状況をWEBで案内し、調剤基本料や施設基準加算の合計金額を掲載し、患者が安い料金の薬局へ処方箋を送付することができるように案内することを考えている。」と話をした。正直、この会社は薬局業界でビジネスをする資格はないと強く思いました。
その営業には、「基本料・施設基準が取れているということは、国の施策に則り、地域に貢献している薬局です。安い薬局を勧めるということは、地域に貢献する薬局の存在を否定すること。そのことが患者のためになるのか!」と強く反論しましたが、全く理解されず、とても憤慨したことを覚えています。調剤に関する患者一部負担金の価値とは何なのでしょうか?
モノの価値に見合った値段とは
ところでみなさんが、スーパーで缶詰の買い物をするときに、気になる商品があるとします。最終的に購入するときは「モノの価値が価格に見合っているか」という判断をして、決定します。メーカーが商品の価格を決めるには「コスト基準型」「競争基準型」「マーケティング戦略型」の3つの手法が使われることが多いと思います。
特に、「コスト基準型」は製造コスト・販売管理費・一般管理費をもとに価格を決定するため、企業が欲しい利益を乗せて価格を決めることができます。消費者の意向(「マーケティング戦略型」)や競合商品との位置づけ(「競争基準型」)等はあまり考慮されていません。そのことによるミスマッチが原因で商品が売れないこともあれば、低い価格を付けすぎて、本来得られるだろう利益を獲得できないというデメリットもあります。
例えば、あまりにも安い価格にしたことで、その商品に対する信頼が低くなり、購入へ結びつかないこともあります。消費者や競合市場の調査をしてから価格を決めること、つまり価格の合意形成を何らかのカタチで行うのは大変重要だと思います。それでは調剤で支払われる患者の一部負担金はどのように考えればよいのでしょうか。
患者一部負担金の価値とは
薬局で会計の際に患者から寄せられる質問は、「いつもと金額が違う」「ほかの薬局より高い」といった内容が多いと思います。そのようなこともあり、4月・10月以外の月から新しく施設基準を加算し、変更することに苦慮された結果、算定を躊躇しているという薬局もありました。また夜間・休日等加算をいつも来局されている患者から算定することに抵抗があるという話もよく耳にします。私もお薬手帳に毎回の一部負担金を書き込んでいる方を見たことがあります。
調剤報酬は国が決めた価格です。調剤基本料や施設基準の算定状況により、一部負担金は若干違いますが、基本的に価格競合は存在しません。患者は一部負担金で薬局を選択することはほぼできません。従って「競争基準型」「マーケティング戦略型」のプライシングではありません。薬剤師の人件費や家賃などの固定費、設備投資費用などを考慮して調剤報酬が決められていることから、「コスト基準型」のプライシングに近いと思われます。
そのように考えると、患者の意思決定によるプロセスを踏んでいない一部負担金です。つまり選択権がない以上、患者はその一部負担金が適切なのかを判断できません。つまり調剤報酬に関する不満は、薬剤師がどのような仕事をしているのかがわからないということもありますが、その背景には「コスト基準型」のプライシングによって一部負担金を支払うことにそもそもの原因があるように思われます。
となると、もし一部負担金に患者が疑問を持つのであれば、服薬指導や薬局のホスピタリティなどに問題があるのかもしれません。考えるに、調剤報酬は薬剤師が職能を発揮して、患者が安心して薬を服用できるようにするための対価です。このコラムでも何回か記載しましたが、日本人は安全・安心を最も重視する傾向にあります。安心・安全への取り組みをもっとアピールすれば、公定価格ではあるかもしれませんが、本当に患者は高いと思うのでしょうか?
薬剤師がやるべきことは、患者への安心・安全を体験させることだと思います。疑義照会は患者に薬剤師の仕事の必要性を知ってもらえる機会ですが、すべての患者が体験できることではありません。私が思うに、薬剤師はスマートに服薬指導をする傾向があります。
例えば、お薬手帳です。患者が出したお薬手帳を調剤室で確認し、患者に何も言わず返却した場合、患者側からすればお薬手帳は出したけど、薬剤師の方が見てくれているのか、不安になると思います。お薬手帳を確認したことは、伝えてあげるべきでしょう。ちなみに私は、投薬カウンターでわざと患者から見えるようにお薬手帳を確認していました。ちょっとした工夫の積み重ねで、患者の薬剤師に対する信頼は大きくなります。そうすれば一部負担金は安いと感じてくれる患者がもっと増えると思います。
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