2020年春、COVID-19の感染拡大を契機に日本の医療のあり方が大きく変わってきました。感染を恐れる患者の多くが受診を控え、長期処方化したことが病院・診療所の経営を圧迫しました。当然ながら、近隣の医療機関から発行される処方箋枚数が売上に直結する薬局の多くも影響を受け、門前型調剤薬局のビジネスモデルは危機を迎えています。
2020年4月10日の厚生労働省の事務連絡では、電話や情報通信機器等を用いた診療の時限的・特例的に可能になることが示され、さらには患者が指定した薬局へ処方箋を送信することが認められました。そして、令和3年の規制改革推進会議での議論を経て、これらの措置は恒久化されることも示されました。これら一連の流れが意味するものはすなわち、患者が医療機関に行かずに処方箋を受け取れる時代の到来です。今後の患者の薬局選びは自宅や仕事場から近い場所にある、あるいは日常生活上に便利な場所にあり、かつ親切に対応してくれることが重要なファクターになるのではないでしょうか。
このようにCOVID-19感染拡大は業界にドラスティックな変化をもたらしましたが、しかし今までこうした兆しが無かったわけではありません。もともと2020年調剤報酬の改定では対物業務の引き下げや立地依存型薬局の調剤基本料引き下げがなされていました。
近年からの方向性として2015年に厚労省が策定した「患者のための薬局ビジョン」では「立地依存から機能依存へ」「対物業務から対人業務へ」「バラバラから一つへ」の方針が打ち出されました。2018年の改定では「服用薬剤調整支援料」が新設され、薬剤師から医師への情報提供が評価されるようになりました。2019年の「0402通知」は薬剤師以外のスタッフが調剤業務にも加わることで薬剤師が対人業務に向かいやすくなる環境を整備しやすくなりました。そして2020年3月成立の改正薬機法による患者フォローの義務化など、実に薬局に求められる機能変化への流れはすでに整っていた形です。
COVID-19によって薬局業界にもたらされるパラダイムシフト=CIPPS(COVID-19 Induced Pharmacy Paradigm Shift)に対応していくためには、業界全体のトレンドや状況を俯瞰した上での系統的なマネジメントが欠かせません。小売業としての基本をおさえる必要性、立地から機能へのシフトチェンジ、薬剤師の時間、気力、体力を創出するための方策。経営者はいま、薬局のバージョンアップに向けて、腹をくくって進むべき時です。
狭間 研至(はざま けんじ)
ファルメディコ株式会社代表取締役社長 / 一般社団法人薬剤師あゆみの会理事長 /医師、医学博士
1969年 大阪生まれ。1995年大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現 大阪府立急性期・総合医療センター)、宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。2000年大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科にて異種移植をテーマとした研究および臨床業務に携わり、2004年同修了後、現職。現在は、医療法人思温会など在宅医療の現場等で医師として診療も行うとともに、一般社団法人 薬剤師あゆみの会・一般社団法人 日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育に、近畿大学薬学部・兵庫医療大学薬学部の非常勤講師として薬学教育にも携わっている。